小林正観さんからこう聞いた第四章③喜ばれる

公開日: : 最終更新日:2022/08/23 小林正観さんからこう聞いた


正観さんがご病気になられてから、私にとっては正観さんと一緒に過ごす時間や話ができる時間がかなり増えました。




正観さんは、「私が学生時代もっとも得意だった科目は体育なんですよね」とおっしゃっていました。実際に、複数の部活をかけもちしたりスポーツ万能だったようです。正観さんは、野球で、右でも左でもボールを投げることができたそうです。実際に、講演会で投球フォームを披露したことがありましたが、確かに右でも左でも自然な投球フォーム。私は野球をやっていた経験があるのでそのすごさがわかります。ちなみに、私は現在でも趣味で野球をやることがありますが、検証のため、自分の利き手とは違う左でボールを投げる練習をしました。一年くらい続けたところ、普通にキャッチボールができるくらいまで上達しました。年齢にして40歳を過ぎた頃の話です。自分の、というよりは人間の能力に驚いたものです。「年を取っても人間の能力は衰えません。衰えるのは意欲のほうです」と正観さんが言っていたことがありますが、その一端を証明することができました。




正観さんの見方道はスポーツにもおよんでいました。あるプロ野球での出来事。そのピッチャーは八回までノーヒットノーランのピッチングが続いていました。ところが、監督は勝つことを優先して、九回はピッチャーを交代。結果そのチームは勝ちましたが、その監督の采配は物議をかもしだしました。「チームが勝つことを優先したのだからいい采配だった」という肯定派と、「ノーヒットノーランがかかっていたのだから投げさせるべきだった」という否定派です。この話を正観さんにしたのは私で、私はどちらかというと肯定派でした。すると正観さんは言いました。「私だったら九回まで投げさせます。なぜならノーヒットノーランがかかっているからです。結果はどうあれ、お客さんもそれを期待していただろうし、ワクワクしたのではないですか。スポーツは勝つことが目的ではないのです」と。正観さんはあらゆることについて「いかに喜ばれるか」を考えていました。




続いても「いかに喜ばれるか」という話です。東北大震災があった年の合宿での話で、芸能人の寄付や慈善活動が話題になっていたときでした。ある政治家が被災地に寄付をしたことが新聞に掲載されました。それについてある有名な方がこのような批判をしたのです。「新聞に寄付を渡す瞬間の写真が掲載されているということはその政治家はわざわざ新聞記者を呼んだということだ。つまり売名行為のためにやったということだ」。正観さんはこの話題をとりあげ、「売名行為でもいいからどんどん寄付をしたほうがいい。人気が下火になった芸能人などは自分の名前を売るためにどんどん寄付をやればいいんです。なぜなら喜ぶ人がいるからです」。私はその話を聞いて、鎌倉時代の極楽寺良観という僧侶のことを思い出しました。正観さんが著書でとりあげているのは良寛さんという江戸時代の僧侶で、別の人物です。極楽寺良観さんは、貧しい人や病人など社会的弱者を支援する活動を行っていました。私が良観さんについて知ったのは、「こういう売名行為をする僧侶がいた」という文脈でした。それを聞いた当時の私は深く考えずに「極楽寺良観という売名行為をする僧侶がいた」と単純に思っていたのです。そのことを正観さんに伝えると、正観さんは言いました。「下心でもなんでもいいから、喜ばれるのならどんどんやったほうがいいのです。私はそれを『売名行為だ』と批判するような人間にはなりたくないのです」と。私もそのときに決意をしました。「純粋な心(と言っても純粋か純粋でないかなんて自分で分かろうはずはないのですが)で何もしない人間よりは、下心でもいいから喜ばれる人間になろう」と。




 このように、正観さんの晩年の一年は、私にとって、一方的に話を聞くのではなく、対話によって多くのことを学ばせていただく時間となりました。







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